はじめに- 患者さんの症状に基づいて診断する脊椎疾患
この記事は 湯澤洋平 医師 が書いています。
湯澤 洋平(ゆざわ ようへい)
稲波脊椎・関節病院 副院長
学会認定・資格:日本整形外科学会専門医、日本整形外科学会認定脊椎脊髄病医、日本脊椎脊髄病学会認定脊椎脊髄外科指導医、日本整形外科学会認定脊椎内視鏡下手術・技術認定医
ウェブサイト「稲波脊椎・関節病院」はじめに
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整形外科の外来には「ヘルニアになってしまいました」とか「狭窄症になってしまいました」と言って受診される患者さんがいます。この表現は必ずしも間違いということではありませんが、本筋とは違っている場合が多くあります。
なにが違うのでしょうか?日本整形外科学会監修の「腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン」に記載されている腰椎椎間板ヘルニアと診断する基準を要約すると「腰・下肢痛がありその症状に見合うMRIなどの検査結果がある」となっています。要するにMRIで椎間板が出っ張っていることを椎間板ヘルニアというのではなく、症状があって初めて椎間板ヘルニアと診断するということです。しかし、一般的にはMRIなどの画像検査で椎間板が突出している場合、患者さんの症状はそれが原因であるとはかぎらないのに“椎間板ヘルニア”と表現されてしまっている場合があります。具体的にはいわゆる腰痛症(MRIで見られる椎間板の突出が原因ではない)であるのに、MRIで椎間板の突出があることから椎間板ヘルニアと説明されていることがしばしばあります。
椎間板はなんの症状もない人でもMRI検査をすると変性(いわゆる加齢変化)や椎間の突出が見られることはよくあります。ある程度の年齢になってくるとなんの症状もない方でもMRIでは脊柱管が狭く(狭窄)なっていることはよくあります。
MRIで椎間板の突出や脊柱管の狭窄があってもなんの症状もなければ治療の必要はありませんし、まして手術は必要がありません。頚椎などで、もしその部位で神経麻痺となると重篤なことになる可能性がある場合は神経麻痺の予防的な目的で手術を考える場合もないことはないですが、基本的には自覚症状がごくわずかな患者さんには手術治療は必要ありません。
医師が手術を勧めるとすれば、あるいは患者さんが手術を受けたいと思うとすれば、MRIで椎間板が出ているからではなく、MRIで脊柱管が狭窄しているからではなく、耐えがたい痛みがある、少ししか歩けない、手足が上手く動かない、しかもそれらの症状が短期間でなくある程度長期間続いている場合です。これは当然のことのように思われますが、実際の医療現場ではこの概念が逆転している場面を見かけます。患者さんの症状は少ないのに、あるいはMRIで見られる椎間板の膨隆が患者さんの症状の原因ではないのに、MRIで見られる“悪いところ”を手術しようという説明を受けたという患者さんの話を耳にします。MRIのようないわゆる画像検査で見られる“悪いところ”を手術するのではなく、患者さんが困っている症状を解決する目的に場合によっては手術を考慮し、それにあたってはその原因がMRI、レントゲンあるいはCTなどではどこにあるのかと考えていくという手順が本来の治療方針の立て方です。(悪性腫瘍の摘出術などは患者さんの自覚症状がなくともMRIやCTなどの画像検査の結果で手術治療が計画されるのかもしれません)
レントゲンやMRIなどの画像検査は形態すなわち形を表現しているのであって、痛みや神経の機能を表現していません。患者さんが困っているのは痛みや神経機能の障害であり、形態的な異常で困っているわけではありません。腰椎椎間板ヘルニア、腰椎すべり症、腰部脊柱管狭窄症などの画像検査の結果、すなわち形態的な特徴から診断を始めるのではなく、患者さんが困っている症状(痛みや神経機能の障害)に基づいて判断して診断し、治療方針を決めていく流れをここで説明していきます。
脊柱側弯症、脊椎の外傷(骨折や脱臼)などでは形態的な異常が問題であるため、形態を表現する画像検査に基づいて診断と治療を進めていくということでなんの問題もありません。したがってここでは画像検査で見られる形態的な異常が主な問題である脊椎疾患については述べません。
- これらの症状は脊椎に原因がある可能性がありますが、脊椎以外に原因がある場合もあります。これらの症状の原因のすべてを網羅してここで説明することは難しいので、脊椎に原因がある場合を中心にこれらの症状について順に説明をしていきます。
各ページでは腰椎椎間板ヘルニア、腰椎すべり症、腰部脊柱管狭窄症などの画像検査の結果、すなわち形態的な特徴から診断を始めるのではなく、患者さんが困っている症状(痛みや神経機能の障害)に基づいて判断して診断し、治療方針を決めていく流れを説明しております。医療関係者でない方も理解出来るようなるべく平易な説明に心がけましたが表現の正確性を考慮して必要最小限の解剖用語を使用しました。患者さんやこれから脊椎疾患を学ぶ医療関係者の参考に少しでもなればよいと思います。